家を売ろうと思い、3社に査定を頼んだとします。
A社は2,000万円。
B社は2,150万円。
C社は2,500万円。
さて、どの会社に頼みますか。
まあ、C社ですよね。
400万円の差です。
「数字だけで判断してはいけません」と言われても、400万円あれば、かなり多くのことができます。
私もC社の査定書を二度見します。
人は400万円を見る生き物です。
ただし、ここで一つだけ確認しておきたいことがあります。
その2,500万円を、C社が払ってくれるわけではありません。
査定額は、入札額ではない
仲介による不動産査定は、
「当社なら、このくらいで売れると考えます」
という不動産会社の予想です。
オークションの入札額ではありません。
査定額が2,500万円でも、不動産会社が2,500万円で買い取ると約束したわけではない。
実際にお金を払うのは、これから探す買主です。
つまり、査定額は不動産会社が書けますが、売却価格を最終的に決めるのは市場です。
ここが少しややこしい。
売主様から見れば、査定額は自宅につけられた点数のように感じます。
「うちの家は2,500万円の価値があるらしい」
そう思うのは自然です。
長く住んだ家なら、なおさらうれしい。
家の通知表で「たいへんよくできました」をもらったようなものです。
ただし、その通知表を書いた人は、このあと自分の会社と契約してほしいと思っています。
だいぶ特殊な通知表です。
なぜ会社によって査定額が違うのか
不動産には、一つとして同じものがありません。
近隣の成約事例、土地の広さ、道路との接し方、建物の状態、日当たり、駐車のしやすさ。
こうした条件を見ながら価格を予想するため、会社によって多少の差が出るのは普通です。
問題は、差があることではありません。
その差に理由があるかどうかです。
他社より高い査定額が出る理由は、大きく分けて三つあります。
一つ目は、本当に高く売る根拠がある場合。
その地域で探しているお客様がいる。
建物を他社より高く評価できる。
一般の住宅としてではなく、事業用や投資用として売る方法がある。
こうした具体的な販売戦略があるなら、高い査定額には意味があります。
二つ目は、売出価格と成約予想価格が混ざっている場合。
2,100万円前後で売れると予想していても、最初は2,380万円から売り出すことがあります。
値下げ交渉や市場の反応を見るためです。
この2,380万円を「査定額」として見せれば、他社より高く見えます。
数字は同じでも、
「この価格で売れる可能性が高い」
と、
「まずはこの価格で売り出してみる」
では意味が違います。
三つ目は、媒介契約を取りたい場合。
売主様は、少しでも高く売ってくれそうな会社を選びたい。
不動産会社も当然、それを知っています。
そこで、まず高い査定額を提示して契約を取り、売れなければ後から値下げを提案する。
2,500万円で売り出す。
反響がないので2,300万円。
内覧がないので2,150万円。
最後は、最初から2,100万円前後と査定していた会社と同じ価格で売れる。
こうなると、最初の2,500万円は販売力の証明ではありません。
契約を取るために置かれた、大きくて目立つ数字だったことになります。
もちろん、高い査定を出した会社がすべてそうだという話ではありません。
高い査定額が悪いのではない。
根拠のない高い査定額が危ないのです。
高く出しすぎると、高く売れなくなることがある
「売れなければ、後から値下げすればいい」
そう考える方もいます。
確かに、価格は後から下げられます。
ただし、時間は元に戻せません。
不動産情報サイトに掲載された直後は、多くの人に新着物件として見てもらえます。
購入を検討している人は、意外とよく市場を見ています。
「この地域で、この広さなら、だいたいこの価格」
という感覚を持っている人も少なくありません。
相場より大幅に高ければ、内覧する前に候補から外されます。
数か月後に値下げしても、今度は、
「ずっと売れていない物件」
として見られます。
買主から、
「何か問題があるのではないか」
「まだ値下げするのではないか」
と思われることもあります。
高く売ろうとして高く出しすぎた結果、販売の一番おいしい時期を使い切ってしまう。
不動産では、そんなことが普通に起こります。
値段は下げられます。
新着には戻せません。
では、一番低い会社が正直なのか
ここまで読むと、
「それなら、一番低い査定を出した会社を選べばいいのか」
と思うかもしれません。
残念ながら、それも違います。
安く出せば、物件は売りやすくなります。
問い合わせも増え、短期間で契約できる可能性が高くなる。
不動産会社にとっては、手間が少なく済みます。
本当は2,200万円で売れる物件を、最初から1,900万円で出せば、早く売れるでしょう。
しかし、早く売れたことと、適正に売れたことは同じではありません。
高すぎる査定にも会社側の都合がある。
低すぎる査定にも会社側の都合がある。
だから、数字の順位だけでは会社を選べないのです。
査定書で見るべきなのは、一番大きな数字ではない
査定を受けたら、金額の横にある理由を聞いてください。
特に確認したいのは、次の三つです。
「この金額で売れると考える根拠は何ですか」
「売出価格と、実際に成約すると予想する価格はそれぞれいくらですか」
「この価格なら、どのくらいの期間で売れる想定ですか」
ここを具体的に説明できる会社なら、査定額が高くても低くても、少なくとも考え方は確認できます。
反対に、
「当社には販売力があります」
「今は相場が上がっています」
「まずは高く出してみましょう」
という話だけで、具体的な成約事例や販売計画が出てこない場合は、少し立ち止まった方がいい。
販売力は便利な言葉です。
目には見えません。
だいたい何にでも使えます。
高い査定額を喜んではいけない、という話ではない
高い査定額が出たら、喜んでいいと思います。
私でも喜びます。
本当に高く売れる可能性もあります。
ただ、その数字をそのまま「自宅の価値」だと思う前に、一度だけ考えてください。
その金額は、誰が払う予定の数字なのか。
仲介会社の査定額は、不動産会社からの購入申込ではありません。
なお、不動産会社自身が買主になる「買取査定」であれば話は別です。
その場合は、提示した会社が実際にその金額を支払います。
仲介査定と買取査定は、同じ「査定」という言葉を使いますが、中身はまったく違います。
一番高い査定額を出した会社が、一番高く売ってくれるとは限りません。
一番低い会社が、最も誠実とも限りません。
選ぶべきなのは、一番気持ちのいい数字を出した会社ではなく、
その数字の意味を、一番具体的に説明できる会社です。
査定書で一番見るべきなのは、大きな文字で印刷された金額ではありません。
その金額の下に書かれている、小さな理由です。